この照らす日月の下は……

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 アスランの束縛がさらにひどくなったのは、キラも予想外だった。
「……どうしよう」
 確かに幼年学校ではそれほど親しくしている人はいない。だが、今ではサハクの双子にメールを送るのもままならなくなってきたのだ。
「またカナード兄さんに『来て』って言えないし……」
 かといって、このままアスランのそばにいるのはまずいような気がする。
 もちろん、レノアも彼を止めてくれてはいるのだ。しかし、いくら彼女でも、自分の目の届かない場所ではどうすることも出来ない。
「両親に相談すれば『引っ越す』と言ってくれるだろう。そうしてもらえればいいのはわかっている。だが、その結果、ハルマの仕事に支障が出ては困るのではないか。
 自分のわがままで父を困らせたくない。今の仕事にやりがいを持っているのだ、彼は。
 それでも、相談しないというわけにはいかないだろう。その方が心配をかけてしまうのだと言うこともわかっている。
 だが、不安がないわけではない。
 アスランが邪魔してくるはずだ。
「……でも、ちゃんとお話ししないと」
 両親に、とそうつぶやいたときである。
「おばさま達に何を相談するの?」
 耳元でアスランの声がした。
「アスランには関係のないことだよ」
 即座にキラはそう言い返す。
「どうして?」
 何故、そんなことを言うのか。本気でわからないと言うように彼はそう告げる。
「家のことだから。いつも言っているけど、アスランはただの友達でしょう。だから、関係ない」
 家族の問題に口を出さないで、と主張した。
「僕がキラを好きなのに?」
「それは関係ないでしょう? アスランは家族じゃないんだから」
 アスランの家族はレノアさんだろう、と言い返す。
「どうしたって、アスランはプラントの人間じゃない」
 オーブでのあれこれは知らないでしょう、と言外に続けた。
「そういうことにまで口を出されると迷惑なんだけど」
 これだけは言っておかないといけない。そう考えてキラは言葉を綴る。
「迷惑? 僕は当然の権利を主張しているだけだよ」
「オーブではそれは非常識なことなんだけど?」
 プラントは違うのか、とキラは聞き返す。
「レノアおばさまに聞いてみようっと」
「母上は関係ないだろう?」
「何で?」
 慌てたように言葉を口にするアスランにキラはこう聞き返す。
「僕のお家のことに口を出すアスランは良くて、どうして僕がレノアおばさまに聞くのはダメなの?」
 矛盾しているって自分でもわかっているのではないか。そう告げた。
「キラは僕のだからいいんだよ!」
 その瞬間、アスランは怒ったようにそう言う。
「僕はものじゃないもん。僕は自分で考えて行動するの!」
 そう言うアスランは大嫌い! とキラは叫ぶように告げる。そのまま勢いよくかけだした。
「キラ!」
「うるさい! ついてくるな!!」
 このまままっすぐに家に帰ってたら意味がない。仕方がないから遠回りをしよう。そう考えてキラは方向を変える。
 それを予想していなかったのか。アスランはいったん道を行き過ぎた。
 それを確認して、キラはまた別の路地に入る。
 さらにぐるりと回るように角を曲がった。
 大通りに戻ったところで無人エレカを止めて乗り込む。運賃は『何かあったときに』と言われて渡されていたカードを使って支払う。
「とうとう言っちゃった……」
 家に着いたらまずはカリダに相談しよう、とキラはつぶやく。それで足りなければサハクの双子とラクスにもメールを出さないといけないだろうか。
 ともかく、アスランが押しかけてくる前になんとかなればいいのだが。きっと無理だろうな、とつぶやくとちいさなため息をついた。


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最遊釈厄伝